一輪の花

いつものように、教室のドアを開く。
すると、頭に鈍い衝撃を感じ、同時に視界が白く曇る。
視線が集まり、黄色い歓声が沸きあがった。
「直撃してんじゃん、まじうける!」
久保麗菜。このクラスのリーダー的存在だ。
誰も彼女に逆らわない。彼女の言動に対する否定、批難はない。
落ちてきた黒板消しをもとの場所へ戻し、自分の机に向かうと、今日も汚れた雑巾と罵詈雑言が机の上にあった。

***

なんとか地元の公立高校へ進学した私は、制服は買えず近所の人のお下がりだった。
くたびれてはいたけど、自分では気にしていなかった。
しかし、真新しい制服に誰もが身を包む入学式では、周りの視線を集めるには十分なくたびれ具合だった。
「あの子の制服さすがにやばくない?」
見下すようなその一言で、根拠のない噂が立ち始めた。
「親に捨てられて貧乏で、お金を稼ぐために男なら誰にでも足を開くらしいよ。」
いかにも真実かのように、一気に学年へ広がった。
興味本位で始まった小さないたずらは、十日もたたないうちにいじめとなった。

***

汚れた雑巾で机の落書きを消し、次は椅子の確認をする。
今日はつぶれた生卵がのっている。
毎日毎日、よくやることが思いつくものだ。
それもふき取ると、麗菜が近づいてこう言う。
「あんたの体に比べればこんなの綺麗だもんね。」
同じグループの西脇夏帆、後藤理沙が笑いながら通り過ぎる。
早く学校が終わればいい。
毎朝こんなことを思いながら、長い1日が始まる。


学校が終わるとそそくさと教室を出て、バイト先へ向かう。
毎日学校から離れたファミレスで働く。そうでもしないと、学費などが払えない。
特に、いじめられてから筆記用具への被害は多く、買い替えなければならなくなる物も少なくない。
バイト先では友達もいて、それなりに楽しかった。
家庭の事情をみんなうすうす知っているが、同情されることも、白い目で見られることもない。
そして、彼がいる。
小野寺洸一。
3つ年上の彼は、研修期間だたころの私の教育係だった。
優しくて、笑うと顔にしわが増えてあどけない表情になる。
そんな彼に、知らないうちに惹かれていった。
お金も稼がなくてはならないし、彼に会える。
シフトは限界まで入れているのは、これが理由だ。
「無理しないでね?体調崩されたら心配になっちゃう。」
彼は本当に心配してくれているのだろうけど、その言葉がより私を頑張らせるとは永遠に気づかないだろう。
人懐っこい彼は接客にまわされることが多い。
私は主に厨房だが、時々彼の仕事姿が目に見えると、暖かい気持ちになる。
目が合うと微笑んでくれる。
うまく微笑み返せてるかな、なんて考えるだけで幸せだ。