スープを一口飲んでから、俺は少しずつももに話し始めた。


「家で、兄ちゃんと華恋がキスしてたんだ…」


「事故じゃなくて?」


「兄ちゃん、…華恋のこと押し倒してた」


顔が熱くなって手に力がこもる。


あんなとこ、見たくなかった。


なんてタイミングが悪いんだろう。


知りたくなんてなかった。


…兄ちゃんと華恋が、そーゆーことする仲だなんて。


「やっぱり兄ちゃんは、普通の女の子がいいんだよ…。俺なんてどーせ、面白半分でっ……」


泣きたくなんてないのに、俺はももの前で泣き出してしまった。


スープの中に涙が落ちる。


美味しいスープなのにもったいないな。


味がよくわからない…。


クッションを掴んで、体育座りした自分の足と顔の間にいれてクッションに顔を押し付けた。


苦しい。


どうしようもなく、苦しい。


真っ暗な視界の中に兄ちゃんと華恋が見えてくるの。


それが嫌で嫌で仕方がない。


「忘れたいっ…」


今日見てしまったこと


それと


兄ちゃんに対するこの想いも。


全て忘れてしまいたい。


ドロドロと、汚い感情と暗い気持ちが溢れて混ざりあう。


それは真っ黒な液体になって、俺の体を隅から隅まで染め上げていく。


重くなった心が悲鳴をあげる。


もう訳がわからない。


頭がおかしくなりそうだ。


なんとも言えない感情のせいで、死にたいなんて考え始めた。


狂おしいほど、俺は兄ちゃんに恋してる。


「助けて…」


掠れた声は誰にも聞こえないくらい小さくて


俺はたぶん、一人なんだと思った。


「李桜」


縮こまった俺の身体を、ももが優しく抱き締める。


「ここにいていいよ。辛いなら、ここに逃げておいで。私が守ってあげる」


真っ暗だ。


でも、ももの言葉に俺は少しだけ


小さな光を見た気がしたんだ。