家事は基本、兄ちゃんと分担してやる。


この家には、俺と兄ちゃん以外誰もいない。


仏壇もない。


俺達の親は元からいなかった。


育ててくれたのは、教会のシスター。


一人立ちできるくらいになったとき、俺と兄ちゃんは家を借りて二人で暮らすようになった。


何不自由ない、普通の暮らし。


「李桜、忘れ物ない?」


「ん。」


玄関から出ると、目がチカチカするくらい眩しい日の光が兄ちゃんを照らした。


「桜、綺麗だな」


アパートの目の前にある公園は、桜公園。


名前の通り、この公園の桜はとても綺麗で有名。


何人かの高校生が歩いていく。


その中で、前を歩いていた男女がすごく賑やかだった。


「お兄ちゃん、頭に桜が乗ってる!」


「叶羽もな」


「えっ?!取ってー!」


私立高校の制服を着たその人達が騒ぐのを、兄ちゃんは面白そうに見ていた。


あの制服って、隣の高校だっけ。


…兄ちゃんは、あーゆう女が好みなのか…。


「李桜、手、繋ごっか?♪」


「いきなりなんだよ」


「可愛くないな~」


兄ちゃんはこんなこと…からかってやってるだけ。


そんなの俺が一番よく知ってる。


それでも


…それでも動揺して、ペースを乱されてる自分がいる。


2年くらい前から少しずつ大きくなったこの変な気持ちは、いったい何なんだろう。


「李桜、ようこそ我が清風高校(せいふうこうこう)へ!」


兄ちゃんは、俺が高校の門を潜るとき


ホントに幸せそうに笑った。