風呂のお湯を沸かしている間、俺達は先に服を着替え待つことにした。
ハルヒには李桜が厚手のスエットを手渡した。
空気が重い。
誰も沈黙を破る気にはなれないのだろう。
何から話すべきなのか、ハルヒがいる時は話さないべきなのか俺は考えていた。
俺は二人より先に着替えてホットミルクを用意するために台所へ移動した。
久しぶりに開けた冷蔵庫の中はほとんど何も入っていなかった。
そういえば、抱き締めた時前より身体が細くなった気がした。
李桜の気持ちを考えると辛かった。
自分を責めずにはいられなくなり、痛む胸を抑える。
コップに流れ落ちていく牛乳は、三人分で丁度終わった。
電子レンジにコップを入れる時
「あっ…」
李桜の声が小さく聞こえた。
二人がいる方へ目を向けると、ハルヒの背中を見て李桜が固まっていた。
俺は急いで床にあったタオルでハルヒの背中を隠す。
すると、ハルヒは俺の手に触れて首を振った。
「説明したかったんだ」
ゆっくり俺が隠した傷跡を李桜に見せる。
李桜は恐怖と驚きが混ざった、辛そうな顔をした。
俺は二人に目を配りながら何もせずに立っていた。
何も言い出せなかった。
いつ見ても傷跡は見るに耐えない。
ハルヒが背中の傷跡を触りながら話し始めた。
「この傷跡は、昔李堵が僕につけたものなんだ。」
李桜の顔が強張る。
俺は俯いて、ハルヒの言葉を待った。
「公園での事故だった。僕は李堵にそう説明したよね?」
「…あぁ」
遊具の上にいる時俺がハルヒにぶつかり、落ちた先にあったタイルで大怪我をして、背中の傷跡はその時の手術跡。
こんなに酷い跡になるような事故だったのに、俺は何も覚えていないが。
ショックで記憶が消えたのかもしれないと言って、ハルヒから責められることはなかった。
それでも拭い切れない罪悪感で、俺はハルヒの願いを何でも聞いたんだ。
「これをダシにして僕は君から李堵を奪ったんだ。…本当に、悪い事をしたと思ってる」
ハルヒの声が震えている。
それが寒さのせいではないことくらいすぐにわかった。
「いいんです。僕はハルヒさんのことも兄のことも攻める気はないですから。」
李桜は優しく微笑んだ。
それもたぶん、本心ではない。

