外は曇で今にも雨が降り出しそうだ。


ハルヒが本屋から出てくるまで、隣のゲームセンターをなんとなく眺めていた。


ハルヒは本が好きだ。


本の世界にのめり込めば自分の現状を見つめたり、過去を振り返ることがないから好きだと言っていた。


背中の傷のことだと思っているが、ハルヒは過去について探られるのを酷く拒む。


どんな経緯で俺がハルヒの背中にあれほど大きな傷を付けたのか、俺は未だに思い出せないままだ。


この話を持ち出すと、ハルヒは途端に顔色が悪くなる。


それがとても心配で、一度話を持ちかけてからは俺の中でぼんやりと疑問として残っているだけだ。


「ごめんごめんっ、買えたから早く映画館行こう?」


それより気になるのは、傷を負わせた俺にハルヒが懐いて好きになるという所。


許さない、恨んでいると言っていた。


側にいさせることが復讐でもあると。


逆らえない理由を付けてまで俺に執着する理由はなんなのかも、俺はずっと聞けずにいる。


「李堵?」


ただ、俺の隣で笑っているハルヒはずっと無理をしている気がする。


ハルヒが気負うことは何もないと思う。


復讐とまで言っているが、それらしい事をされた覚えはないからそう思うのかもしれない。


同情心とは、側にいれば居るほどに強くなるものらしい。


それでも俺は


「行こうか、映画」


違和感を残しているはずの関係に縋らなければ、立っていることもできないのかもしれない。


ハルヒが俺に捌け口を作ってくれていなかったら、俺は李桜と会話することすらできなかっただろう。


たとえ偽りの感情でも、俺達はお互いを必要としている。


これでいい。


このまま、兄弟に戻れる時を待てばいい。


スクランブル交差点で立ち止まりながらそんなことを考えていた時。


「ゆう、ちゃん…」


ハルヒが誰かの名前を微かに口に出した。


聞き取ることができなかったが、ハルヒの周りの時が止まっていることだけ理解できた。


声をかける前に、青になった信号とは逆方向にハルヒが俺の手を引いて走りだした。


人の波にもまれて何度も手が離れそうになる。


「ハルヒっ!」


掴んだその腕は、ハルヒには掴まれているのかどうなのかわからなかったのかもしれない。


走りだした足は雨が降りだしても止まらなかった。