ケータイの画面越しに目が合う。


後ろに李桜がいた。


俺と同じくらい動揺していて、声をかけずに目を逸らす。


「弟君久しぶりだね。どうしたの?何か用?」


笑顔なんて作りもしないで、声色だけ明るくハルヒが李桜に声をかける。


早く帰れと睨みつけているように見える。


2、3度目を泳がせたあと、意を決して李桜が震える口を動かした。


「こ、今度の日曜日っ、桜公園!」


「え?」


「待ってる、から」


それだけ言うと、李桜は廊下を猛ダッシュで逃げるように帰っていった。


日曜日、桜公園。


デート?いや、そんな訳無いか。


今更デートなんてしないだろうし。


何か話でもあるのか?


別れ話?


…かもな。


それこそ今更って感じだけど、自然消滅しただけで別れ話はしていなかった。


ハッキリさせるってだけか。


秀都と付き合うことにでもなったんだろうか。


たぶん、そうだ。


秀都なら大丈夫だろう。


李桜を一番側で守れるのは俺じゃない。


素直におめでとうと言えるだろうか。


全く祝う気がないから、言わなくてもいい気がしてくる。


日曜日はついさっき、ハルヒと映画を見に行く約束をしたばかりだ。


考えるまでもない。


「行かないよね?」


「行くわけないだろ」


もう、話すことなんて何もない。


俺が今一番するべきことは、ハルヒを一人にしないことだ。


李桜とはもう終わったんだ。


LINEを開いて、久しぶりに李桜にメッセージを送った。


「李堵大好き!」


満足そうに微笑むハルヒの頭を撫でながら、ケータイの電源を切った。


切れる直前、ケータイにLINEのメッセージが表示されていた気がした。