純粋にそう思ったのに。


少しの沈黙の後、坂口さんは
全く予想もしなかったことを言った。




「…清水君。

名前で…呼んでいいよ」



「え…?」


「約束、したでしょ?
体育祭のとき全部勝てたらって」


覚えててくれたんや…



「それに。
アタシも近づきたいから…」





ーー『坂口さんにもっと近づきたいから
…かな。』





きっとこれは、さっき俺が言いかけたことへの返事だったんだと思う。

今、坂口さんが出せる精一杯の答えは
…'好き'でも'嫌い'でもない言葉。


だけど、坂口さんが少しでも俺に近づきたいと思ってくれているのなら、

そして、いつか俺のことを好きになってくれるかもしれないのなら、


'名前で呼んでいい'っていう言葉は、
俺にとって充分すぎるくらいの返事だった。