加倉史サラのデスクは、一番端、入り口近くの一番手前にある。
カミテシモテで言うところのシモテなのだが、働いているバイトよりも後から入社したサラには、さして違和感はない。
というよりも、彼女の中にはカミテシモテの概念がないだけなのかもしれない。


デスクにつき、パソコンを起動させ、その間に夜勤からの報告書を確認。
社員のいない夜間にトラブルがあると、まずサラが引き継がなければいけない。
―と言っても、聞いた話をそのまま上司に報告するぐらいしか出来ないのだが―

しかし、どうやら今日の朝は、大好きなミルクコーヒーを飲む時間がありそうだ。



「ピッ」と軽い音を立ててパソコンが起動した。

慣れない手つきでメーラーを開く。

未読は4件。

最初の2件は上司の元田からのデートの誘いだった。
サラは、卑猥な単語を連発してくる元田は大嫌いだが、彼から来るラブレターは毎日楽しみにしている。
これまで刺激のない生活を送ってきたサラにとって、人にこれほど好かれるのは初めての経験で、どんな人だろうと、人に好かれて悪い気はしないものだろう。

―さて、これは後で見るとして・・・―


もう1件は、社長からだった。

一分一秒を惜しむこの会社に朝礼は存在しない。
あるのは、毎朝の社長からの有難いお言葉。
「時は金なり」と「縁の下の力持ち」
この二つの言葉を送るためにメーラーを開く時間は惜しくないようだ。

しかし、サラは毎日コレを見て心を引き締める。
いらないところで生真面目なのだ。