そして、私の名前がアナウンスされた。


私は無言で氷の上に足を付け、いつもと同じように滑っていく。


氷の中心に立ち、深呼吸をする。


そして、私の目に写ったのは、背広姿で真っ赤な花束を抱えたアイツだった。


アイツもまた汗が滲んでいる。


まあ、緊張ではなくて走ったからなのだろうが。


アイツが、私を見つめた。


私も、見つめた。


すると、彼は私に笑いかけた。


私も笑った。


緊張が、体中から抜けていく感じがする。


私は深呼吸をして、構えた。


これが終わったら、アイツになんて言ってやろうか。


これが終わったら、アイツはなんて言うだろうか。


どうしてかは知らないけれど、演技を失敗する気がしなかった。



緊張・終