コートのポケットへ手を入れ、忍ばせておいた紗雪へのプレゼントを確認する。

「これを紗雪に渡すのは、実花を忘れる為じゃない。実花をきちんと思い出にする為なんだ」

夜空に向かい話す俺は、自分の言葉が実花に聞こえている気がしている。

言い訳がましい言葉を、実花はどんな風に聞いているだろうか。

「紗雪に渡せば、きっと実花を思い出に出来る気がするんだ」

そしてもう一度走ろうと思い、マフラーを巻き直そうと取った時だった。

突然、風が強く吹いたかと思うと、俺の手からマフラーを奪った。

「あっ!」

宙に舞ったマフラーが、車道へと飛んでいく。
するとちょうどその時、車が走ってきたのだった。

とっさに体はマフラーを追ったけれど、完全に車道に出たそれに、車の運転手は驚いたのか、急ブレーキを踏んだ。

だが、雪で路面が濡れているせいか、その車は車体を斜めにさせたかと思うと、気が付いた時には俺に向かってきていたのだった。

“ぶつかる!”

そう思った時、とっさに脳裏に浮かんだのは、紗雪と実花の笑顔だった。

紗雪、会いたい。
だけど、実花。

お前にも、やっぱり会いたいよ…。