走っても走っても、紗雪に近付いている気がしない。

街にいる事が分かっているだけで、具体的な場所も分からないのに、走ってどうするんだ。

そう思う自分もいるけれど、とにかく走らずにはいられなかった。

「紗雪…。どうして、携帯が繋がらないんだよ」

さっきまでは舞っている程度だった雪が、本格的に降り出してきた。

その上、風も出てきたせいで軽い吹雪の状態だ。

走る俺の顔に、鬱陶しいくらいの雪がかかる。

途中、何度か携帯を確認したけれど、紗雪からの折り返しはなかった。

もちろん、実花の様に紗雪まで事故に遭うはずはない。
だから、こんなに心配する事自体が、取り越し苦労だと分かっている。

けれど、不安は拭い取れなかった。

だって、俺は知っているから。
突然、大事な人を失うという現実もあるという事を。

実花の時だって、まさか事故に遭うとは想像もしていなかった。

だけど、事故は起こり実花を失った。
それを経験してしまうと、恐怖を感じずにはいられないのだった。

連絡が取れない。その状況は俺には耐え難い。

「すっかり、暗くなったな」

さすがに息切れをし、足を止め呼吸を整える。

日没の時間が早い上に、雪で空は雲に覆われているからか、いつもより早く暗くなっている気がする。

夜空と変わった空を見上げると、思い出すのは実花の笑顔。

俺が最後に見た実花は、笑って「また明日ね」と手を振る姿だ。

その「明日」は、永遠に来なくなったわけだけど…。

あの日、本当なら二人でホワイトクリスマスの夜空を見上げるはずだったんだ。

だけど、それは叶わなかった。
あの日見た夜空は、絶望のどん底で見上げたホワイトクリスマスの夜空。

「実花、俺は怖いんだよ。お前を忘れていきそうな気がして、怖い…」