それが、実花の事を言っているのはすぐに分かった。

「いや、俺は今年は紗雪と過ごそうと思ってるんだ」

俺にだって、用意しているプレゼントがある。
それは、明日24日に絶対に渡したかった。

「ううん。私ね、一緒にいて誰かを想われるより、一緒にいなくて自分を想って欲しいの」

その言葉は、俺の胸に痛いくらいに突き刺さり、返す言葉が見当たらない。

情けないくらいに呆然とする俺に、紗雪は笑顔を崩さず、マフラーを巻き直してくれた。

「無理はしないでね。私、実花さんを想う柊を分かってて、好きでいるんだから」

「紗雪…」

分かっていたのか。
隣にいて、事あるごとに実花を思い出していた俺の気持ちを、見透かしていたのか。

「私ね、会社では先輩と後輩の関係でしかない柊と、プライベートでは、こんな風に恋人同士でいられるんだから。それだけで幸せよ」

それは、意地らしいまでに一途な紗雪の想いだった。

そして、ささやかな俺への抵抗だという事も分かる。

いつまでも手放せないマフラーは、実花を抱きしめているのも同じだ。

その俺の横で、紗雪はどれくらい我慢していたのだろうか。

今ここで、明日の約束を強引に取り付けるのは逆効果だ。

「分かった。だけど、せめて夜くらいは会わないか?俺は、紗雪に会いたいんだ」

すると、紗雪はゆっくりと頷いてくれた。

「じゃあ、夜にね。それまでは、私も“お一人様”を堪能しておくから」

「ああ。必ず夜に」

笑顔の紗雪とは、この日そのまま別れた。

明日の夜まで、その笑顔に会えないのかと思うと、寂しさを感じる自分がいて、それが怖かった。

前に進みたい自分と、進みたくない自分とで葛藤しているのだった。