もう、定時の時間だ。

いつもより集中していたから今週末までの仕事も順調に進んだし、今日はもう帰ろう。



そう思って帰りの準備をする。


準備が終わって、誰というわけでもなく、とりあえず部屋全体に向かって挨拶をした。


「お疲れ様」


なんて返してくれる人もいれば、そうでない人もいる。

いつもの光景だ。




受け付けにネームカードを返して、さぁ帰ろうとしたとき。急に後ろから肩を叩かれた。



「今日は早いんだね」


「上野先輩…」



最悪だわ……。

朝といい…どうして今日はこんなにタイミングが悪いのだろう。



「先輩も今日は早いねんですね」


「まぁね」



………そうね。新婚さんだものね。



否が応でも指輪が目に入る。


その度に苦しい。



「駐車場まで一緒に行こうか」


そう言われ、返事に詰まる。


でも、断るのも不自然だから


「……はい」


と言うしかなかった。









「今日、元気がない気がするんだけど…何かあった?俺で良ければいつでも相談に乗るよ?」



「……………」



じゃあ、奥さんと別れて、私のことを好きになって下さい。




…なんて。


言えるわけもなく。




「……いえ…、大丈夫です。少し、腹痛がするだけで」


付け足しで、ガールズデーだからかな…、と呟いてみる。嘘だけど。



「…あぁ…そ、そっか」


彼は少し戸惑ったあと、それ以上の詮索はしなかった。


少し申し訳なさそうな顔をしている。



それを見てちょっとだけいい気分な私は、性格が悪いのだろうか。