うそ……でしょ……。
私は、目の前の現実を信じられないでいた。
でも、信じたくない。
嘘。夢。
そう願っても“それ”は確かにそこにあるわけで……。
なにかの間違いだったら恥ずかしいな~。
なんて表面で笑いながら、本当はそれを期待した。
そうよ。私の勘違いだってこともあるかもなんだから……!
意を決して本人に聞いてみることにする。
「あの…それ……」
私がそう話しかけた爽やかオーラの滲み出たこの男性は、入社当時から親身になって面倒を見てくれた会社の先輩だ。
私の指した先には、彼の左手。
だが、私が言いたいのは左手のことじゃない。左手に“付いている”指輪だ。
左手の薬指に“付いている”指輪をちらりと見て、彼はなんともだらしない笑顔で笑った。
嫌な予感しかしなかった。
だって、彼のだらしない…幸せに満ち溢れた笑顔が真実を物語っていたから。
「あぁ…うん…。結婚したんだ。先週…」
あぁぁ……………。
終わったわ…………。
さようなら。私の恋。
心は真っ暗でも、ただお祝いの言葉は伝えた。
「おめでとうございます……」
たぶん…完全な笑顔ではなかったと思うけど。
「ありがとう」
彼のお礼の言葉は受け入れられなかった。
でも、二十歳を過ぎて思ったこと。
中学生とか、高校生のときとかは出来なかった心の制御が巧くなったと思う。
例えば……失恋してもその場で泣かない、とか。