絵梨子が、秀一郎を知ったのは、大学に入ってスグの頃だった。
 自分と同じ年の新入生で、大学始まって以来の秀才と謳われ、学内で評判になっているコがいた。IQが200だとか、高校時代に書いた論文がアメリカの某大学で評価されたとか、ココの大学に入学したのも教授連の強い推薦があった為だとか、破格の奨学金や国からの助成金を貰っているだとか……学内に吹き荒れた噂の嵐は、信憑性のあるものから、どう考えても眉唾なモノまで様々だった。
 しかし、絵梨子達新入生と大学内は、その春の嵐に散々振り回されたのだった。
 そこまで噂になる程の秀才クンで、しかも同じ新入生……となれば、絵梨子でなくとも気にはなる筈。当然、好奇心旺盛で森羅万象あらゆる物に興味のアンテナを張り巡らしている絵梨子は、高校時代から一緒の友達を誘い、秀才クン探しに夢中になった。

 その結果、ようやく見付けた秀才クンこそが、この南秀一郎だった。
 身長180ちょい、メガネを掛け、サラサラの髪を特にセットした風でも無くちょい長めに伸ばし、痩せてスラリと長身の秀一郎は、いかにも「秀才現る!」といった風貌だった。しかも何故か秀一郎は、いつも咥え煙草で学内をウロついていた。まあ、コレは後に絵梨子が秀一郎と親しくなって知ったコトなのだが、秀一郎は入学時期こそ、絵梨子達と同じであったが、実際の年齢は絵里子達より二つ年上であった。入学が遅れたのは、アメリカの大学からの編入であった為……と、これまた「いかにも」な理由だった。