彼女の縁談は瞬く間に纏まり、彼女が楽園を出る日も一日、また一日と近づいてきた。
 彼女は、兄や姉、そして母、更には楽園の様々な者達から、たくさんの贈り物を貰い受けた。その贈り物の一つ一つが、やもすれば彼女の胸を漆黒の闇で覆ってしまいかねない程の不安を少しづつ和らげ、取り除いてくれるのであった。
 いよいよ出立を七日後に控えたその夜、偉大なる父が彼女の元を訪れた。父は美しく装飾の施された一つの函を彼女に渡した。
「この函には、万が一、お前を予期せぬ事態が襲い、お前が不運に見舞われた時、ソレを回避し、お前をそこから救い出す為の様々なモノが入っている。但し、これは大変に重要なモノであるから、お前に余程の事が無い限り、この函を開ける事を父は許しはしない。それに、本当の幸せとは、この函を開けずにすむ事なのだと言う事を覚えて於いて欲しい」
 父の目は優しかった。彼女を心から慈しんでいるのが彼女にも伝わってくる。彼女はフト天空を見上げた。美しく冴え渡る月が、まるで矢を射る寸前の弓の様に張り詰めた弧を描いていた。七日後の新月を迎えるその日、彼女はこの楽園を出るのだった。

 七日後。彼女は愛すべきこの楽園を後にした――。