秀一郎の向かい側に座っている神田は、腕組みしたままブツブツと何事かを呟き、考え込んでいる風だった。
「ふーん、南クンが実はS県出身で、北神クンの幼馴染みだったとはねぇ……」
 秀一郎は、どうにか北神刹那との関係を二人に理解し納得して貰うと、一息つくつもりで胸のポケットからマルボロ・メンソールの箱を取り出した。残り少なくなってきた箱の中から一本取り出すと、右手でそれを口に運び、テーブルの上にあったライターを左手で掴み火を点け様とした。すると、突然、何を思い出したのか、神田が素っ頓狂な声を上げて秀一郎に質問をブツけてきた。
「んんっ?! ちょっと待って! じゃあ、何? 南クンは、北神クンの家を知ってるってコト?」
「……そりゃ、まあ、アイツの家は、地区内でも名家として一目置かれていましたし、色んな意味で有名でしたから」
 至福の一服の出鼻を挫かれ、少々テンションの下がった感じを漂わせながら秀一郎は神田の質問に答えた。
「北神クンの実家って、そんなに有名なの?」
 そんな秀一郎の様子など、一向に気にする事など無く、自身の興味ある事が最優先事項として取り扱われる点など、まさに神田流瑠の面目躍如といった所であった。秀一郎は咥えていたマルボロ・メンソールを口から離すと、吸い口の辺りで、テーブルをトントンと叩いた。
「ええ。俺や刹那の実家があるのは脊振村という土地だったんですが、佐賀県と福岡県に跨る脊振山の山頂部に位置するその村の中でも、刹那の実家がある場所は、最も山の頂に近い神部という地区なんですよ。こういった田舎では、よくある事なんですが、村の奥深くに在れば在る程、その家は歴史の古い名家だったりするんです。脊振村もまた、その例に漏れるモノではありませんでしたから、刹那の実家は脊振村随一の由緒正しき家柄なんですよ。ちなみに俺の実家は村の入り口付近で、村で最も標高の低い場所でしたけどね」
「北神クンと南クンの実家は村の入り口と出口の様に、全く反対の場所にあったワケね」
「そういうワケです」
 秀一郎は、ハハハ……と乾いた笑い声を立てたが、神田が何の反応もみせないのを確認すると、すぐに笑うのをやめて、ポリポリと頭を掻いた。
「名前だけじゃ無くて、実家の位置もシンメトリーなのね」