ひとりで抱え込んでいた不安をそっと吸い取って、ふわりと溶かしてくれる。
落ち込んでいた気持ちを包み込むようにすくい上げて、必ず笑顔にしてくれる。
ずっと変わらずこの場所にあるのは、胡桃さんのぬくもりと、甘くて優しい一杯の魔法。
「また、いらしてくださいね」
――ありがとうございました。
扉を開けて彼と並んで歩いていく彼女に、外に出て深く礼をする胡桃さんの背中は。
俺よりもずっと小さくて、華奢で、たった5歳しか離れていないのに、どこか安心できるたくましさがある。
1年前、勉強にも恋愛にも、自分を取り巻くすべてのものに疲れていた俺を癒し、立ち上がらせてくれた日。
『一口飲めば、たちまち身体があたたまる。二口飲めば、嫌なことをほんの少し忘れられる。そうしてちょっとずつ飲んでいって、全部飲み干す頃には、』
――ねえ胡桃さん。
あの時から、俺は。


