「このミルクティね、ただのミルクティじゃないんですよ」
ほかほかと湯気を立てるアールグレイベースのミルクティのカップを、女性の前に差し出しながら。
胡桃さんは、暗く沈んだ彼女の顔を見つめて笑いかける。
……この、懐かしい響きは、
「特別な方にしかお出ししない、魔法のミルクティなんです。一口飲めば、たちまち身体があたたまる。二口飲めば、嫌なことをほんの少し忘れられる。……そうしてちょっとずつ飲んでいって、全部飲み干す頃には、」
「みんな、笑顔になっているんです」
胡桃さんの言葉を遮って、突然俺の口から出てきた一言。
自分で言ったくせに、妙に緊張して、心臓がバクバクと音をたてる。
胡桃さんは一瞬驚いたようにこちらを見上げたけれど、すぐに目を細めて、そうだね、と頷いてくれた。


