「そういえば、一回実家に帰らなくてよかったのか?荷物とかあったんだろ?」

突然健吾が思い出したように聞いてきた。

「あ~、お土産と一緒に宅急便で送ってくれるって言うから大丈夫。健吾へのお礼のお土産も入っているって。迎えに来てくれたお礼に渡しなさいって」

「マジで?ラッキー。じゃあ、楽しみにしているよ」

お母さんは彼氏が迎えに来ると勘違いしていたから何度も『違う!』って説明したし、お父さんに関しては男が迎えに来るってだけでヘソ曲げちゃうし。
彼氏だったらよかったのにね、本当に。

「しっかし今日は随分と気合入っているな」

信号が赤になって停車したところで、健吾が私の頭から足元まで見ながら言った。

「え~、まあ結婚式だしね。こんな格好滅多にしないものね」

膝より上のスカートの裾を触りながらシフォンドレスの感触を確かめる。
いつもスーツ姿だし、健吾と出かける時はお洒落するけどこんな格好はしない。
今日は髪も巻いているし、化粧も濃いしね。そう考えていたら何だか恥ずかしくなってきた。

「何か・・頑張り過ぎって感じかな?」

確かめるように健吾の横顔を見ながら聞いてみる。

「いや、いいんじゃん?まあ、いつもの楓じゃなくて最初ビックリしたけど。でも似合ってる」

少し微笑んで言ってくれる。
今日は健吾と会うためにお洒落したわけじゃないけど、褒められたみたいでなんか嬉しい。

「本当?ありがと」

「うん、何かフワフワ~っとしてるし、俺そーゆーの好きだな。髪もフワフワ~クルクル~だしな」

こっちを見て言ってくれる。
好きだなって言葉がすごく心にきた。
健吾の好みに少しでもなれたなんて、やっぱり嬉しい。

「いつもと違うもんね。頑張り過ぎたけど良かったのかな?」

「うん、いい」

笑いながら断言してくれる健吾がすごく愛おしくなった。
こんな時、『好き!』って言えないことも、嬉しくてギュッと抱きつくこともできない友達って立場が辛くなる。
別に友達でも『好き!』って言ったり、抱きつくことくらい他の人はしているのだろうけど、私は健吾のことが好きすぎて友達としてすることができない。

バカは私だ。
だから今は嬉しい気持ちを心から感じて喜ぶことにする。

「よかった。今日は色々と考えたこともあったけど、結婚式も参加できてよかったし楽しかった。それに遠いのに健吾が迎えに来てくれたし、すっごく嬉しい。ありがとね、健吾」

「いいえ、どういたしまして」

それからは最初のような空気はなく、何度も笑える話をしながら送ってくれた。
また明日職場で会えるのに、帰っていく健吾の車を見送るのが寂しくなる位幸せなひとときだった。

ああ・・・やっぱり大好き。