君が好きだから嘘をつく

「どうした?一人で飲んで」

英輔は顔を傾けながら笑顔で聞いてきた。懐かしい笑顔。

そう、この笑顔をいつも見ていた、10年前まで。

10年経っているからもちろん大人の男になっているけど、記憶に残っている笑顔・安心感は変わっていなかった。

「佑香と一緒にいたけど、今あっちにいるから」

私が指をさすと英輔もそっちを見る。そして『ああ、そっか』と笑いながら小さく頷いた。
そしてまたこっちを向くと、何も言わずに微笑んだ。

「楓、久しぶりだな。元気だったか?」

優しい声のトーンで聞いてきた。
予想外の距離感、英輔の笑顔。こんな風に話しかけてもらえると思わなかった。
長い年月トラウマのように心に残り、あれだけ再会に悩み、話せると思わなかったのに英輔の言葉に自然と口から言葉が出てきた。

「うん・・元気だったよ。英輔は?」

「楓が目の前に見ている通り元気だったよ」

笑顔で言葉を返してきた。

「そっか・・」

緊張もあって答えているけど言葉が途切れ途切れになっている私に、変わらず笑顔を向けてくれる。

「結婚式に楓も参列するって聞いていたから楽しみにしていたんだぞ」

「えっ!」

思ってもいなかった言葉に驚いた。

「もうずっと楓に会っていなかったからさ。実家に帰って来た時は久保たちと集まって飲んでいたから、楓の事とか時々聞いたよ。そう!楓の会社と俺の会社は意外と近いんだぜ、知らなかっただろう」

「うそ!どこ?」

聞くと3駅しか離れていない距離に英輔はいたらしい。
きっと真奈美は知っていたはずなのに1度も聞いたことがない。まあ、私にとって英輔というキーワードは禁句になっていたからね。あえて真奈美は言わなかったのだろうな。

「でもまたこうして会えて話せてよかったよ。うん、すげー嬉しい」

英輔の言葉がストンと胸の中心に届いた。
何か嘘みたい。失恋してから動揺して完全に意固地になって、英輔との距離を作ってしまったんだ私は。
親友だったのに、勝手に好きになって振られて断ち切ってしまった。なんなんだ!って怒っていていいはずなのに、英輔は再会を喜んで言葉に出してくれている。

凝り固まった心の氷が、サーっと解けたように感じた。

「英輔、ごめんね。私ひどいことしたのに、本当にごめんね」

「何言ってるんだよ、俺こそごめんな。俺あの頃まだガキでいろんなこと分かっていなかった。楓にひどいこと言ったよな。ずっと後悔していたんだ。もう会えないかなって思っていたから、久保に聞いて今日楽しみにしていたんだ。まあ・・無視されるかな?とも思っていたけどね。でもよかったよ、こうして会えて話せて」

英輔から予想外の言葉にビックリしたけど、ちゃんと話したいと思った。
英輔が謝ることは何もないって、ちゃんと伝えたいと思った。

何よりもあんなに行きたくない・会いたくないと思っていた感情がこんなにも変化するなんてただただ驚いていた。