「とりあえず行ってみますね、なるべく無理はしないようにしますから」

「そうだね。何かあったら電話しておいで」

「はい、ありがとうございます」

「よし!じゃあ、今日も行って来るか!私、今日直帰になるかもしれないから」

「わかりました。じゃあ、行ってきます」

咲季先輩と別れて、本日の訪問先を回った。

仕事中は気持ちを切り替えようとしたけど、やっぱり心の重さを引きずったままで、とりあえずこなしたというような仕事をしてしまった。
だめだ、今日は早く帰ろう・・・そう決めていつもより早く会社に戻り、日報など簡単に処理して終業時間とともに帰宅した。

ベッドの上で天井をボーっと見つめていると、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。
テーブルの上に置いたバッグから取り出して着信を見る。ー健吾だー

「もしもし・・・」

「もしもし楓?今日はもう帰ったのか?今は家?」

「うん。今日はスムーズに終わったから、久しぶりに早く帰ってきたんだ」

伊東さんに会うのが嫌で、気持ちが落ちているなんて言えないしね。
完全に落ちた顔していたから、誰にも会わずに帰って来れてよかった。

「そっか。あ~あのさ、伊東さんから電話があって明後日の夜どうかな?って。楓は大丈夫?もしよければ隼人にも連絡して決めたいと思ってさ」

「うん・・明後日ね、わかった。時間と場所が決まったらまた教えて」

「うん、連絡するよ。・・・楓さあ、何かごめんな変なこと頼んじゃって。伊東さんに相談にのるって言っておいて友人連れて行くなんて情けないよな。本当は一人で行ってちゃんと話を聞いてあげたいけど、2人で会って彼女が誤解されないようにしないとって思ってさ」

「健吾やさしいね。そのやさしさきっと伊東さんに通じるよ」

「だといいな」

健吾が苦笑しているのが伝わってくる。健吾もいろいろ考えているわけだ。

でも、そんなに伊東さんのこと考えているんだね・・彼氏以外の男と会っているのを見られて誤解されないように・・・なんてさ。
彼女へのそんな気遣いを健吾がしていることに、本当は心がきしんだ。
言葉だけだと頼りなかったり、情けないように思われたりするけど、本当はいつも物事をちゃんと考えているんだよね。
それだけ考えているから健吾も辛い片思いなわけね。潰れるほどお酒飲むのも分かるな。

でもさ、悩んで健吾に電話かけてきて、『相談にのって欲しい』って言うなんて、完全に片思いでもないのかもしれない・・


「じゃあ、とりあえずまた連絡待ってるから」

「ああ、悪いけどよろしくな」

そうして電話を切った。精一杯明るく話したつもりだけど。
私、ちゃんと健吾と伊東さんの前で笑えるかな?
健吾の女友達でいることに努力してきたけど、伊東さんに関わるつもりはなかった。

これも健吾の恋の応援なのかな・・・

またベッドに横になり、ずーっと天井を見ていた。