「柚原もお酒強いね。結構好きなの?」

「そうだね。いつも飲んでいるうちに、だんだん強くなっちゃった。恥ずかしいね」

「そんなことないよ。楽しく飲めていいと思うけどね」

「そうかな~」

2人のグラスが空になる頃に、健吾が戻ってきた。
電話に出た時の嬉しそうな表情とは違って、微妙な顔だ。

きっと何かあったんだ。

「ごめん、お待たせ。あれ?飲み物変えたんだ。俺じゃあ、熱燗にしようかな」

「大丈夫?飲みすぎだよ」

私が止めようと思ってもまだ飲むつもりらしい。

「隼人、いいだろう一緒に飲もうよ。楓もな」

おばちゃんにおちょこを3つ用意してもらい、また飲み続けた。
健吾を見ると、何か考えている感じだ。まあ、伊東さんのことだろう。
難しい顔をするような話だったの?今の2人の事は全然分からない。

「今の電話、伊東さんだったんだ。あ、隼人は総務課の伊東麻里ちゃん知ってる?」

「ああ、書類出しに行った時に見たことあるよ」

健吾が伊東さんの事を話し始めて、私はただ健吾を見つめた。

「彼女が彼氏ともめたらしくて、ちょっと電話してきたんだ。彼女悩んでいてさ、相談のってもらいたいって。今度会って話を聞く約束したんだけどさ・・・よかったら楓も一緒に来てくれないか?」

「・・・え?私が?・・・何で?」

どうして私が行くの?

あまりの衝撃に、健吾の言っている事の意味が全く分からなかった。
何で・・・健吾と伊東さんが一緒のところなんて見たくもないのに。

「頼むよ楓、相談って言っても彼氏がいるのに2人で会うのはさ。女の子の気持ちは俺にもよく分からないし、楓も話を聞いて相談にのってあげて欲しいんだ」

「健吾は伊東さんのこと好きなんでしょ。だったら2人で会って話聞けばいいじゃない。伊東さんだって知らない私に来られても困ると思うよ」

「大丈夫。楓は仲のいい友人って、彼女にも前から話してあるから」

「でも・・・」

とてもじゃないけど、『いいよ』なんて言葉出せない。どうして私が・・

「どんな言葉でもいいから言ってあげて欲しいんだ。俺もいつも楓の言葉に救われているし、この先どんな風になるか分からないけど、相談のるならちゃんとしたいんだ」

「私、何もできないよ。それでも・・いいの?」

「うん、ありがとう楓」

もう頷くしかできなかった。
いろんな感情が渦巻いていたけど、全て口に出せなくて。全部飲み込んで頷いた。

「じゃあ、僕も行こうかな?」

突然割って入った澤田くんは、笑顔で自分も行くと言い出した。

「隼人」

さすがに健吾も驚いたらしい。私だって思わず口が開いてしまった。
でも澤田くんは笑顔を崩していない。

「だって健吾が好きな子だろ?ちゃんとアドバイスした方がいいし、男の気持ちなら僕にも分かるしね。健吾の友人だし、僕も行っていいかな?」

相変わらず健吾は驚いたままだったけど、一言『うん』と答えた。
澤田くんも笑顔で頷いてまた日本酒を口にした。
伊東さんの相談に私を誘う健吾の気持ちを理解できなければ、今まで飲みにだってほとんど一緒に行かなかった澤田くんが、健吾と伊東さんの相談の場に行きたいと言う気持ちも全く理解ができない。

楽しく始まった飲みの夜が、一変して憂鬱な夜に変化してしまった。