「そっか、そうだよな。俺も楓に幸せになって欲しいと思っているけど、相手は誰でもいいわけじゃないよ。俺だってこうやって楓と海に来れるのは楽しいし。彼氏がいたら食事でも飲みにでも簡単に誘えないしな。でも、楓の幸せは本当に願っているよ。さっきみたいにナンパされる楓を見ると、心配っていうか気になってさ。何か変なこと言ってごめんな」

「ううん、ありがとう。嬉しかった」

笑いながらも恥ずかしそうに照れている健吾に、私も素直になれた。
結局私達は友達なんだと感じたけど、私の幸せを思ってくれている健吾の気持ちが素直に嬉しい。

「何か寒くなってきたな。天気もイマイチだしそろそろ行くか」

「うん」

風も強くなり薄着で来た肌を冷やした。
やっぱりコートを持ってくればよかったな。
バッグを持ち、歩きにくい砂浜じゃなく階段を上り車目指して歩道を歩いた。
すっかり輝きを失った海だけど、歩きながら見る景色はいい。

その時、ポツリと顔に雫を感じた。

「あれ・・雨?」

「降ってきちゃったな。楓急ごう!」

健吾がバッグを持ってくれて2人で軽く走り出すと、あっという間にポツリポツリと降りだして、すぐに雨は強く降り車にたどり着いた頃には服も濡れてしまった。
キーで開けてくれて急いで車に乗る。
バッグを受け取り砂浜で足を拭いたタオルとは違うフェイスタオルを取り出し健吾に差し出す。

「海で濡れるかと思って持ってきたの。健吾使って」

「バカ、まず自分のこと乾かせよ、風邪ひくぞ」

健吾は呆れた口調でタオルを受け取ると、私の頭にかけてワシワシと拭いてきた。
思いがけない行動に私は固まった・・・簡単に拭くと私の顔を覗き込んでくる。

「大丈夫か?」

「うん・・うん大丈夫。健吾も早く乾かして」

「わかった。まさか雨が降るとは思わなかったな。もう少し近くに車停めればよかったよな、悪い」

話しながらガシガシと乱暴に自分の髪を拭いている。そんな姿を横目で眺める。
髪が乱れても愛おしいなぁ。

「そんなことないよ。海を見ているうちに楽しくて、どんどん歩き出したの私だもん。ごめんね」

「雨に濡れて寒いだろ」

話しながら健吾は後部座席を見ると、着ていたパーカーと半袖のTシャツを脱いで上半身裸になった。

「何!どしたの?」

驚いた私に着ていたTシャツを差し出した。

「着替えがあればよかったのに、着ていたやつでゴメン。でもパーカーが厚手で濡れていないから」

「え!大丈夫だよ。タオルで拭けば。濡れていないなら健吾が着て!裸ってわけにいかないでしょう?」

私も両手で押し返す。

「いいから着替えろ。ブラウス濡れてそのまま着ているわけにいかないし、脱いでコート直に着るのもなんだろ。とりあえず、これ我慢して着ておけよ。俺はジャケットあるから大丈夫、ほら後ろで着替えて来い」