君が好きだから嘘をつく

「はい」

バッグを健吾が差し出してくれ、健吾のもとへ取りに行く。

「ありがとう」

バッグを受け取り中からスマートフォンを取り出して見ると、ディスプレイに表示されていたのは母親の名前だった。

「ちょっとごめんね」

一言断って電話に出ると、母親の明るい声が聞こえてきた。

「もしもし」

「もしもし、楓。今、電話大丈夫?」

仕事している娘を気遣う母親の優しさがいつも電話の時に感じられた。
キッチンに戻り、耳と肩で携帯を挟みながら話し、トレーの上にコーヒーカップの準備をする。

「うん、今帰って来たとこだよ。それで、何かあった?」

「そうそう、今日高校の同窓会のはがきが来たけど、そっちへ郵送するか聞こうと思って。どうする?」

「ああ、お願い送っ・・あっ!」

話の途中でスマートフォンが落ちそうになり、手を動かしたらカップを載せていたトレーにぶつかって、ガチャガチャと音をたてた。するとその音に健吾が反応した。

「大丈夫か?」

心配そうに駆け寄って来てくれた。

「うん、大丈夫」

その声に母親が反応した。

「何、どうしたの?誰かお客さん来ていたの?」

その問いに、一瞬戸惑う。健吾の声が聞こえたのだろう。

「うん、・・友達が?来てるの」

どう話すか迷ってごまかすような答え方をしてしまった。チラッと健吾の方を見ると、しっかりと目があってしまい、更に気まずくなる。

「あら、ごめんね。じゃあ、はがきは明日送るわね」

「うん、ありがと。お願い」

「はーい。じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」

電話を切りキッチン横の棚に携帯を置いて健吾の方を見ると、やっぱりこっちを見ている。ジトーっとした不機嫌そうな瞳で。