「はい!今日もお疲れ様」

そう言いながら咲季先輩は澤田くんのデスクにもコーヒーを置いて、私のそばにイスを引いてきて座った。

「ありがとうございます」

コーヒーのお礼を言い、熱いコーヒーを一口飲む。砂糖とミルクが多めで疲れた身体に心地よく染み渡った。

「美味しい」

私が言葉に出して言うと、『よかった』と言いながら咲季先輩もコーヒーを飲み始めた。
澤田くんを見ると、イスの背もたれに寄りかかりながら同じようにコーヒーを口にしていた。

「ねえ!楓、今日はこれで仕事終わりでしょう?」

「はい」

「じゃあ~飲みに行こ!」

誘いではなく決定の潔さを持って満面の笑顔を見せた。
このまま自分の部屋に戻って、空虚な気持ちでボーっとするよりずっといいかもしれない。
こんな時誘ってくれる咲季先輩の存在が楓には嬉しかった。

「いいですよ」

私の顔も自然と笑顔になる。

「いいお店見つけたからさ。料理も美味しい所」

「じゃあこれだけ終わらせちゃいます」

そう言いながらコーヒーをデスクの上に置きバッグから書類を出した時、

「僕も一緒に行っていいですか?」

澤田くんが珍しく会話に参加してきた。

「いいよ~大歓迎、ねっ?楓」

咲季先輩に促され、笑顔で答える。

「うん。澤田くんはもう終わったの?」

「もういつでも大丈夫だよ」

そう言った澤田くんのデスクの上を見ると、パソコンは閉じられ広げられていた書類などは全て片付けられていた。

「私も今日はもういいかな。お腹空いちゃったし、また明日続きやる」

「そうだよそうだよ。さあ!じゃあ支度して行こう」

咲季先輩の上機嫌な声に乗って、デスクの上の書類を引き出しにしまって鍵をかける。
コートを着てバッグを持って3人でフロアから出ると、咲季先輩がタクシーを呼ぶ電話をかけた。