先輩なら、って淡い期待があった。
だって状況が違うとはいえ、悩みの根本は母親だもの。
「あのっ、先輩」
教室へ足を運ぶ先輩を呼び止めると、
先輩はゆっくりと私を見て優しく微笑んだ。
呼び止めたのはいいが、勝手に人の事情を話して良いわけがない。
まして、仮にも先輩は受験生。
私の身勝手な行動で、周りを引っ掻き回したらダメだな、と思う。
「真衣ちゃん?どうしたの?」
「あ、いや…すみません。なんでもないです」
変なの。
そう言って先輩はまた微笑んで教室へ向かった。
「真衣さん」
王子の今まで聞いたことのない低い声に体がビクっと硬直する。
ゆっくり見上げた王子は、冷めた目で私を見下ろした。
「余計な口、挟まないでね」
警告ともとれる言葉に、息を飲んだ。


