「いらっしゃいま――あ!」


店に入ると声が止まったので驚いた顔をした顔を上げた






『あ、』


金髪を少し遊ばせてカラオケの店の制服に身を包んだ彼――



前日に会ったナンパしてきた彼






「何?あの彼氏より俺の方が良くなっちゃった?」

クックッなんて何かたくらんだ顔でかけてくる声に

『違います』


なんて冷たく返してみる




「でもこれって運命かな?」


『…、』


あ、321番部屋ね、なんていいながら部屋を案内してくれる彼の跡を黙ってついて行った


「てか一人?なんかあった?」


『いや…、』



数人しか乗れないだろう少し古びたエレベーターに乗り込む



「ふーん。てか俺今日5時上がりだからここで待っててよ」


『え、』


「あと3時間!一人でなんか歌ってろよ」


指を3にして彼は片手で部屋のドアを開けた




『3時間か…分かった』


家にかえってもまだ彩海と修平さんがいるだろうし、会いたくない




「じゃあ行くから。あとその目の赤い理由も、あとで聞いちゃうかも」

―ス、私の片目に近付いた手にドキリとして反射的に目をつぶった



『ッ』

ピタリ、冷たい手が片目を覆った




「じゃあ、あとでね」

バイバイと口パクで言い部屋を出て行った




ガラス張りになっている影をチラリとみてみれば目は赤くなっていた



『(明日、腫れちゃうかなあ…)』


でもこんな所まで聞いちゃうなんて女の子慣れしてるんだろな



てか私は何をしているのだろう



昨日ナンパしてきた彼、颯太の事を待ってるなんて、私は相当な馬鹿女かもしれない





きっと、体目当てなのかな…




流行りの歌を予約して曲を流した



『――ッ』

歌ってる途中に流れてくる涙




決して自分の声に自惚れてる訳ではなくて


失恋の歌を歌っていたら余計に悲しくなって涙が出てしまった





『…好き!バカッ!』

マイクに向かって叫んだ声は誰も拾ってはくれなかった