「颯太が小学5年生の頃、離婚してね、1人息子だった颯太を私が引き取ったの…離婚した原因がお父さんの浮気だったのよ…お父さんは今も浮気相手と幸せに暮らしてるわ…」



『――そんな』






「女手1つで育てるのって、どんだけ大変なのか痛い程分かったわ。お金は少しは仕送りしてくれたけどそれじゃ足りなくて朝晩問わずに働いた。そして、中学2年生の時に颯太に初彼女ができたの」


『…はい』




「その子も片親で結構自由な家庭らしくてね。私も目に入る範囲だと注意とかはしてたけど中々治らなくて、二人は一緒で学校サボったりやらかしてくれたり…大変だったわ。でも、少しずつその二人の関係が可笑しくなったのよ、詳しくは分からないけど男女関係だと思うわ…この部屋で二人が争う声が聞こえたもの…」



『…』



「そして、男女の力の差…あの子は、どんどんアザだらけになって、颯太の部屋に、この部屋に監禁されていたの…」





『――ッ』



今、同じ状態なのか






「私も詳しくは知らなかったの。子供同士の争い程度だったから――、でも颯太が出かけている隙に、ここの屋上――、13階からその子は飛び下りた」




『――そんな、』



まさか、私も――…



「自殺未遂よ、生きてたの」




『でも、』



颯太はもうその子とは――




「その子はもうどこかへ引っ越してしまって会ってない…そして、颯太は荒れ狂った。知らない女の子を家に連れ込み乱暴する事もしょっちゅうあったし、私も何度も殴られたわ…」




震える颯太のお母さんの手をぎゅ、と握った




「…怖くて、怖くて、逃げたわ…。こうやって颯太がいない時間を見計らって家に帰ってきて、また逃げるの。女の子の靴があったから、もしかして…って思ってきてみたらこれだから…」



ぎゅ、と強く握り返してきた






そしてゆっくりと




「――逃げなさい」


と、口を開いた






『…え?』



「ここの建物の前にコンビニがあるの。そこして携帯の充電器を買って、頼れる知り合いに連絡してタクシーで行きなさい」




『…でも』



お金が――…





「足りるかしら?これ持ってって頂戴」




ここに来る前に用意していたのだろうか、ポケットから折りたたんだ1万円を私に差し出した




『あの…』



「私が知ってる限りではこうやって監禁されてたのはその子以来、胡桃ちゃんが始めてよ。きっと颯太は胡桃ちゃんがすごく好きになってきてると思う――、同じ風になってほしくない。だから――」


悲しそうに笑ってゆっくりと私を立たせた



殴られた所が、ヒリヒリと痛んだが、この気持ちをムダにはしたくない




「颯太は帰って来ないわ。今日は1日晴れ、夕方までは仕事場を離れられない…今がチャンスよ」



行きなさい、と私をゆっくりろ引っ張っていく姿は、何処か寂しげで






『…有難う、ございました。…颯太を、幸せにできなくてごめんなさい…』


ゆっくりと頭を下げる私に、いいのよ、と優しく笑ってくれた





『颯太はきっと、まだあの子の事が好きです。すごく悲しそうな顔をしてたから…』





――やっぱり、そういうことだったのね