そして、視線を上げこちらに顔を向ける。

「みずきにはそれだけの覚悟があるんだろう」

父は母の肩に手を置いたまま、僕の目をじっと見た。僕は…

その空気に負けないように父を睨み返す。

僕の気持ちを推し量る様に見透かしている瞳…

父は昔から、たまにそういう目をする。

全てを見透かされている恐怖に落とされるような瞳に

囚われそうになる自分を奮い立たせた。


にらみ合いが続いた。父は母を優しく包みながらも

僕に対して向ける空気の冷たさに、その愛の深さと、底知れぬ闇を感じた。

父は父で母を全てのものから守っている。

それはこの僕からでさえもだ。

そうやって父たちは多くのものを乗り越えてきたのだろう。

それでも負けるわけにはいかない…

僕にだって、守りたいものができた。だからもう誰にも、父にだって負けはしない。

この想いだけは、誰にも邪魔させない。


これ以上彼女を待たせて、もし万が一後ろ髪さえつかめなかったら…

僕は自分の愚かさを一生呪うだろう。

誰にでも愛想のいいただの弱虫のままじゃ、

ひなさんや彼女達とはこれから暮らしていけない。

本当の意味で親離れしなければ…


母が膝に置いていた掌を、肩にある父の掌の上にそっと重ねた。

父は僕から視線を外し母の瞳をゆっくりとのぞきこむ。

お互いの視線が優しく絡み合った。