父の制する言葉に母は過剰に反応した。

「そんなことどうでもいい!この子は女を、女の体を…どう思って扱ってるの?

子どもができるってどういうことかわかってるの?

何もしないで子どもなんてできないのよ!!」

肩で息をしながら目の端に涙を溜め、僕を殴った右掌を反対の手で包み込んで

母は立ち尽くしていた。

そんな母に、父はもう何も言わず、ただ抱きしめてその腕を撫ではじめた。

しばらくすると父の愛撫に母が少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。

荒げていた息が静まり、高揚していた感情が落ち着いてきたように見えた。

普段母は激高したりはしない。幼いころの僕に対してだってそうだった。

わがままな慈希にですら、感情を荒げたりはしなかった。

その人が、こんなに怒るなんて…

決していいことをしているなんて思いはなかった。

でもそれはお互いの同意の上で起こった大人の関係。

それに責任を取ろうとする僕はこんなに責められなければならないのだろうか?


そして、何よりこんな母を冷静になだめる父のことはもっと恐ろしいと思った。

父は母を腕の中から解放し、彼女が椅子に座るのを助ける。

それからやさしく囁くように

「ほのか」

と呼んで肩に両手を置いた。