バシッ!

バシ!!

バシ…ッ。

仲間の悲惨な姿を見ても、チノリアゲハは氷の壁への突撃をやめない。

「ちょっと待ってよ…」

透明な氷が、チノリアゲハの赤と黒で覆われていく。

「ウソでしょ…」

空の星も、地の花も、夜の闇すら見えないほどに上も下も隙間なくビッチリと。

「何なのよコイツらァ!?」

月明かりが完全にさえぎられ、氷のドームの内側は不自然な闇に閉ざされて…

それでもまだ、チノリアゲハの衝突音は響き続ける。

チノリアゲハ達は、氷に磔になった仲間の死骸の上から体当たりを繰り返しているのだ。

そして遂に…


ピシッ!!

ピシピシピシピシッ!!

パキーーーーーーンッ!!


氷のドームが砕け散った。

氷の破片と蝶の死骸が、スリサズに頭から降り注ぐ。

この瞬間を待ち兼ねていた蝶達が、一斉にスリサズに襲いかかる。

「ッ!!」

一匹の蝶の攻撃で開いた傷口に、複数の蝶が直接群がって血をすする。

蝶達はもはやスリサズに遠慮も警戒も抱いていない。

「アアアッ!
たかがチョーチョなんか相手にこんなッ!!」

スリサズは、自分の全ての体重と全ての力を杖に預けて、杖の先端を地面に突き立てた。

「ブリザード・ボム!!」

杖を中心に猛烈な吹雪が巻き起こる。

術を操るスリサズ自身も気を抜けば飛ばされそうな暴風と、意識を保つのもやっとなほどの冷気。

しばし吹き荒れ、不意に収まると…

空に飛ぶ蝶は一匹も居らず、地では氷の刃でズタズタに切り裂かれたチノリアゲハの赤と黒の羽の破片が、つぼみを閉じたまま凍りついたチューリップの周囲に、まるで散った後の花びらのように散らばっていた。

「たかがチョーチョなんか相手に、こんな大技を使わなくちゃなんないなんて」

スリサズの杖は、天辺から先端にかけて、真っ二つに割れていた。

(やっぱ、この杖もダメか)

惜し気もなく投げ捨てて、目当ての塔を見上げ直す。

(思ってたより手ごわそう)

けれど。

(手ごわければそれだけ中のお宝も期待できるってもんよ!)

臆することなく、塔に向かって一歩踏み出す。

そして…

自分で凍らせた地面に自分で足を滑らせてスッ転び、頭を打って気を失った。