ふと前を見ると、向こう側から歩いてくる人影が見えた。


暗いからよく見えないが、風貌的に女のようだ。


危ねぇなぁ、女一人でこんな道歩くなんて…


少しずつ近付いていくにつれて俺の中に違和感が芽生えていく。


暗くても分かっちまうんだよ。


歩き方とか纏ってる雰囲気で。


俺の目の前を歩くこいつは…



「ちとせ?」



もう暗くても顔が分かる位置に来たとき、その名を呼んだ。


俯きがちに歩いていた人物の顔が上げられると、そいつは間違いなくちとせ本人で…


何やってんだ、このバカは!


日頃から横着せずに人通りの多い所を歩くように言ってんのに。



「あら、悠斗くんじゃん! こんな所で奇遇ですねぇ?」


「俺もこんな人の少ない所で会うとは思わなかったなぁ…ちとせちゃん?」



驚きつつもとぼけた様子で話しをするちとせにそう返してみせると、
次は明らかにまずったと顔に書いているような表情へと変化する。


どんだけ分かりやすい性格してんだか…


嘘なんてこいつには一生つけない気がしてならない。



「こ、これはですね? 海よりも深く山よりも高い事情がございまして…」


「へぇ、その事情って?」


「………」


いくら待っても次の言葉が出てくる様子はない。


間違いなく事情とやらはなさそうだ。