ぼんやりとそんなことを考えていると、突如、腕を強く引かれた。
バランスを崩したあたしの体は、雄平に向かって倒れ込む。
「ごめん。少しだけ」
気付いた時には、雄平の腕に包まれていた。
それを認識するやいなや、騒ぎ出す心臓。
雄平の大きな手のひらが、あたしの頭をそっと撫でる。
大切そうに、撫でてくれる。
この手は、あたしだけのもの?
心の中で問いかけると、心臓が絞られるように痛んだ。
いつかこの手が他の誰かに触れていたなんて。
考えるだけで、ズタズタに切り裂かれる思いがした。
「杏奈……好きだよ」
耳元で囁かれる声に、体が熱くなる。
この声が、あたしだけのものであればいいのに。
「あたしも……好き……」
あたしだけのものに、できたらいいのに。



