落とした本のほこりを払い、棚に戻す。
「伊田ちゃん、今の彼氏が初めて?」
付き合ったのは、という意味だろうと、あたしはそのまま答えた。
「……そうですけど」
すると先輩は、指をパチンと鳴らす。
「わお!処女なんだ、伊田ちゃん」
「っ……!そんなこと一言も言ってませんけど!」
図星ですけど!そんなこと、東郷先輩に教えてたまるか。
「彼氏も初めて?」
「……え」
すっと、頭の血が下がっていく。
『杏奈のこと、中一の時からずっと好きだったから』
昨日の雄平の言葉を思い出す。
それが本当だとしたら、中一の時から彼女はいなかったことになる?
それより前は?
……それとも、彼女がいなかったから童貞だ、というのは、決めつけ?
ああ、こんな時になって初めて気付くなんて。
あたしは雄平のことを、少しも知らないんだ。
雄平は、経験があるの?
これまでに、あたし以外の誰かを……抱いた?
頭の中が、ぐらりと揺れる。



