でも確かに、いつものように東郷先輩を邪険に扱っていないことに気付いた。
たぶん、昨日雄平と話したおかげだと思う。
東郷先輩との間に何もないことを、雄平なら話せばわかるとわかったから。
雄平の言葉を借りるなら、“余裕”が生まれたのだと思う。
「彼氏とエッチでもした?」
ドサッと鈍く鳴るのは、ちょうど抜き取った冊子が、床に落ちた音だ。
「ちょっと伊田ちゃーん。わかりやすすぎ」
東郷先輩はくくっと笑う。
「ち、ち、違いますっっ」
「あは。隠すことないのに」
「ほんとに違うんですってば!だいたいあたし達、」
そこまで言って、口を押さえた。
東郷先輩に、初体験はまだです、なんて言ってどうする。
東郷先輩は、かわいらしく小首をかしげ、あたしをしげしげと見る。
そして、
「ふぅん。まだなの」
ニヤリ、と含み笑いを浮かべた。
ああ、もう。
からかうネタをこっちから提供しているんだから世話ない。



