早朝の改札口を抜けて、プラットホームを進む。
踏みしめるコンクリートは夜の気配を残したまま、靴越しにもひんやりと冷たい。
ゆっくりと足を進め、前から二両目の車両が停まる場所で足を止めた。
どこからか入って来た鳩が、トコトコとぎこちない足取りで歩いている。
「杏奈」
ふいに響く足早な靴音の後で、落ち着いた低音が、あたしの鼓膜を優しく揺らす。
振り向いたあたしの顔はきっと、うれしい気持ちを隠し切れていない。
朝一番に、大好きな人に会えるだなんて、なんて贅沢なのだろう。
「おはよ、雄平」
それは、あたし達の、朝のデートの始まりの合図。
高校に入学したあたし達は、どちらともなくこの時間の電車の、この車両に乗ることになった。
そして一時間弱の通学時間を、毎日一緒に過ごす。
あたしにとって何より楽しく、そして幸せな時間だ。