雄平だと、すぐにわかった。
けれど、だから、すぐに振り向けなかった。
どうして三年生の階にいるかなんて、そんなの明白だ。
あたしを追ってきた。
そして、あたしと東郷先輩のやり取りを見ていたんだ。
下を向いて早足で歩いたせいで、雄平が廊下にいることに気付けなかった。
「知り合いだったの?なんで?」
やばい……これは完全に、やきもちモードだ。
中三の時のことを思い出す。
あたしになついていた後輩の男の子に対しても、雄平はこんなふうに威嚇的だった。
恐る恐る振り返ると、雄平は冷ややかな目で、あたしを見据えていた。
「最近、知り合ったの。落し物を拾ってもらって」
「落し物って?」
「ハンカチ。あたしが落としたのに気付いて、拾ってくれたんだよ」
「ふーん。そういうことって現実にあるんだな」
嫌味な言い方だ。