3年E組の教室に辿り着き、中を覗き込みながら鳴海先輩が声を上げる。
「歩ちゃん、いるー?」
「いるよー」
奥の方で片手を上げるのは、まぎれもなく東郷先輩だ。
ついでに、教室中の視線もついてくる。
「あ。伊田ちゃんっ」
あたしを見つけた東郷先輩は、無邪気に両手を振る。
その口調を真似して、鳴海先輩が楽しげに言う。
「おいでよ、伊田ちゃん」
そのまま手を引かれて、あたしは恐縮しながら教室の中に足を踏み入れた。
「うれしいよ、伊田ちゃんの方から会いに来てくれるなんて」
「辞書、返してもらいに来たんです」
そう言うと、東郷先輩が、あっと口を開ける。
そして苦笑いをしながら、机から辞書を取り出して手渡してくれた。
「ごめんごめん」
「いいです。もう貸しませんから」
「えー!?やだやだ!ごめんってばー」



