次の休み時間、鈴音と美菜には、あの出来事を話した。
「で、なんで東郷先輩は杏奈の名前知ってたわけ?」
美菜が、少しつまらなさそうに言う。
思った通り美菜も、東郷先輩がお気に入りのようだ。
「さあ……」
「ずるい!杏奈ばっかり!」
「まあまあ、美菜。落ち着きなさいって」
鈴音になだめられながらも、ぷりぷりと怒る美菜に苦笑いしていると、廊下から教室の中を伺っている雄平の姿を見つけた。
目が合うと中に入って来ようとするので、あたしからも迎えに行く。
「杏奈、悪いんだけど、英和辞書貸してくれない?」
「え……辞書?英和?」
血の気が引いた。
けれど次の瞬間には、もう頭に血が上っている。
東郷先輩のやつ……授業は終わっているはずなのに、どうして返しに来ないのよ!
「雄平、ちょっとここで待ってて」
「え?どこ行くんだよ」
あたしは雄平を置いて、教室を飛び出した。



