何やら楽しげな先輩の笑顔に見下ろされると、なんだか怖い。
「な、何か用ですか」
そもそも、綺麗すぎて迫力があるんだ、この人は。
「辞書貸してって、言ったよ?」
「そんなの、同じ学年の人に借りてください」
冷たく言い放つと、教室の空気が凍りついた。
みんなが、ものすごい目であたしを見てくる。
この東郷先輩にキツく当たるだなんて無礼千万とでも言いたげだ。
「杏奈、貸して差し上げたら?」
「“差し上げる”って、鈴音……」
へへ、と笑う鈴音。
そうだ、彼女にとって東郷先輩は“王子”なのだった。
「……先輩、何の辞書ですか?」
そう聞くと、先輩はかわいらしく口を尖らせる。
「英語のって、言ったよ?」
あたしは机の中を引っかき回し、分厚い辞書を取り出した。