「伊ー田ちゃんっ。英語の辞書貸ーしてっ」


変なリズムに乗った、自分の名前。

美菜や鈴音と話をしていたあたしは、勢い良く振り返った。

突然の、しかも意外すぎる訪問者に、クラス中がざわめく。

女子はまだしも、男子もが見惚れる美貌の持ち主は、


「東郷先輩!?」

「正解!」


パチンと指を鳴らして、人差し指をあたしに向ける。

キザったらしい仕草が様になるから、すごい。

みんなの視線を気にすることなく、先輩はずかずかと教室に踏み込んでくる。


「あ、杏奈っ!どういうこと!?」


鈴音があたしの腕を掴んだ。

いつも落ち着いた鈴音らしくなく、興奮して声が裏返っている。


「あたしにも、何がなんだか……」


言い終わらないうちに、先輩があたし達のもとへ辿り着いた。