きっと名前を呼んだのも、ハンカチに書いてあったか何かだ。
高校生にもなって持ち物に名前を書く憶えはないけれど、ここはそう納得しておかないと、落ち着きを取り戻せない。
「拾ってくれたんですね。ありがとうございます」
東郷先輩に歩み寄り、ハンカチを受け取ろうとした。
けれど。
あたしの手をすり抜けるようにして、ハンカチが上昇していく。
背の高さと腕の長さを最大限発揮して、先輩はあたしのハンカチをうんと高くに上げた。
「え?」
ぽかんと、口が開いた。
だって、何が起きている?
からかわれている?
初めて会った人に?
「あの」
苛立った声を隠すことなく、先輩をにらみつけるように見上げた。
しかし彼は、もう一度、にこりと微笑む。
「俺のこと、知ってる?」
「返して下さい」
あえて無視をして、強く言う。
「俺の名前、知ってたら返してあげてもいいよ」
「は……?」



