先輩の背中が校舎の中に消えてからようやく、あたし達は大きく息を吐き出した。


「杏奈、顔赤い」

「鈴音こそ」


あたしと鈴音は、真っ赤になった顔を見合せながら苦笑した。

微笑みかけられただけで赤面してしまうなんて、こんな経験、これから先もあるかどうか。

あんな美形を初めて見た。


「王子、健在って感じ」


鈴音は赤い顔を手のひらで仰ぎながら言う。

王子、か。その形容には納得できる。

神々し過ぎて、手を合わせたいくらいだ。

この学校は、鳴海先輩といい、東郷先輩といい、美形揃いだ。

あの二人が恋人同士なら、それこそ完璧のカップルなのに。

そのまま額縁に入れて飾れるくらいの。


「付き合ってないのかなぁ」


雄平のことを抜きにしても、そう思った。





東郷歩。

この時あたしは、あたしと彼の人生が交差するなんて、露とも考えていなかった。