「あ」
目が、合った。
作り物のように整った顔を、真正面に捉える。
淡い茶色の髪が、さらりと風に揺れた。
どこか中世的な顔立ちは、デッサンのモデルにする石膏像を思い出させた。
ふいに、その形の良い唇が弧を描く。
そして大きな目がわずかに細められる。
一呼吸遅れて、彼は微笑んだのだと認識した。
階上の、あたしと鈴音に向かって。
隣で鈴音が息を呑む気配がした。
極上の微笑みに、あたしも鈴音も体の自由を奪われる。
その呪縛は、温かな風のように余韻を残しながら彼があたし達から視線をはずしてからも、踵を返して鳴海先輩を追って歩き出してからも、しばらく解けることはなかった。