「美菜に鳴海先輩の噂聞いて、思ったよ。“女版・東郷歩”だって」
彼を説明するのに充分過ぎる言葉だ。
女をとっかえひっかえ、なんて噂されているのだろう。
それをしても何ら違和感がないと思えるから怖い。
「昔から先輩は、“みんなの東郷歩”なの」
何か神秘的なものを語るように言う鈴音の目は、ハートマークになっている。
彼女や他の女の子にとって、東郷歩はアイドルか、はたまた神様みたいな存在なのかもしれない。
「……ふぅん」
でも要は、遊び人だ。
まあ、茶髪が軽そうな印象を与えるし、あそこまで整った顔を持っているから、誰か一人のものになるのが難しいという理屈も、わからなくもない。
予鈴が鳴って、中庭の人達が帰り支度を始める。
鳴海先輩に続いて東郷先輩も立ち上がり、両手を上に上げて、うんと伸びをした。
そして体をひねった拍子に、こちらに視線が向いた。



