「彼氏……かな」


肯定してほしい気持ちも込めて、言う。

その想像が正しいとしたら、あたしにとって朗報だ。

鳴海先輩に彼氏がいるとすれば、少なくとも、雄平を“狙って”いるなんてことは無いということだ。

この悶々とした渦から、抜け出せることになる。

鈴音は目を細めて観察していたかと思うと、


「あれ?相手の人って……」


言いかけて、首をひねった。

彼はこちら側に背を向けているので後頭部しか見えないのに、じっと見ていれば顔が見えると思っているみたいに、鈴音はそこから視線をはずさない。

大胆に校則を破った明るい茶色が、決して彼が優等生ではないことを語っている。

鈴音の願いが通じたのか、彼が少し体勢を変えて、横顔がちらりと見えた。


「東郷先輩」


やっぱり、という響きを持って、鈴音は小さくつぶやいた。


「知ってる人?」