でも、まだ駄目だ。

杏奈は純粋すぎる。

唇に触れたい、それ以上にも踏み込みたい、そんな俺の欲望で、汚したくなかった。

杏奈が自然に俺を求めてくれるまで待つと決めていたんだ。

その杏奈を、俺は今、別の方法で汚している。

杏奈の綺麗な心が、俺への嫌悪で、そしてもしかすると鳴海先輩への憎しみで、黒く染まっていく。


「軽蔑……するよな」


絞るように、言葉を続ける以外になかった。


「杏奈のことが好きだったのに。つきあってもいない相手と、なんて」


これは罰だ。

杏奈に憎まれるという、俺にとって最大の罰。

だから杏奈、


「汚いと、思うだろ?」


いっそ、軽蔑してくれ。

俺が立ち直れないほどに、憎んでくれ。