「杏奈、俺……」
やっぱり杏奈のことが、好きだ。
この感情は幻なんかじゃない。
俺は間違いなく、今、目の前にいるこの女のことが、好きでたまらない。
整った顔立ち、大人びた表情、ちょっとキツい口調。
そのどれもが、俺の目と耳を捉えて離さないのは、ひとめぼれしたあの日と同じ。
いや、正確には、それは違う。
あの頃知らなかった彼女の素顔を、今の俺は知っている。
意外と無邪気な笑顔を見せるところ、おもしろい話が好きで、俺の話に腹を抱えて笑うところ。
ちょっと短気で負けず嫌いなところ、案外気が弱いところ。
俺はあの頃より伊田杏奈を知って、そしてあの頃より、伊田杏奈が好きだ。



