「……杏奈」


その響きはまだ耳慣れず、脳に届くまでに時間がかかるような気がした。

でも、これからはきっと、東郷先輩が何度も名前を呼んでくれる。

何度も何度も、呼んで、呼んで、耳に馴染み過ぎたあの響きを、あの声色を、塗り替えてくれる。

だから……。


「後戻りはできないよ」


窓から射し込む夕日が先輩を橙に染めて、あたしはその綺麗な顔を直視できずに、目を細める。